夢八十五夜

 夢を見た。



父親が急斜面に立っている。

とんでもなく急な斜面だ。80度くらい?

夕方、西日を浴びてとても精悍な顔つきをしている。

他にも観光客らしき人がチラホラ。


そんな父親を少し離れたところから見ていたら、父親は走り出した。

急な斜面を。

見てすぐ、滑り落ちそうになりそれを回避するために走り出したことは理解できた。

しかし、無情にもあっという間に(本当にあっという間に)落ちていった。

俺は悲鳴をあげながら下を覗き込む。

遥か下の地面には父親が倒れている。

すると、父親はモゾモゾと両手を後ろに回した。


ピンときた。

これは「大丈夫」のサイン。


俺は命が助かっていることに安心しながらも、急いで斜面についている階段を駆け下りていた。

最近じゃあ父親のことをあまり呼ばないが、「お父さん」と叫びながら。

夢八十四夜

夢を見た。


篠山紀信、タイガーウッズ、ティムバートン。
俺の目の前には、この三人がいる。

俺は今、大切な話を打ち明けられる。
緊張している俺と同様に、打ち明ける三人もかなり緊張しているようだ。

「僕たちさ」篠山が言う。
「実は兄弟なんだ」篠山には言いにくいと思ったのか続けざまにウッズが言った。
「だって似てるだろ?」ティムはサングラスをずらして俺を見た。

深刻な顔で俺はうなずいた。
そもそもこんなに似ているのに、なんで俺は気がつかなかったんだろう。
なんでもっと早く気がついてやれなかったんだろうと思った。
すごく申し訳ない気持ちになった俺は、
今まで以上にこいつらを大切にしてやろうと心に決めていた。

夢八十三夜

夢を見た。


忍野八海みたいなところの池のほとりで、亮くんと話している。俺は手に持っている銃を見せると、「次朗はそういう雰囲気のがすきだよね〜」と言う。そうそう、こういうのが好きなんだ。
話していると、もう一人の亮くん。照井くんだ。ものすごく変な革ジャンを着ている。ものすごくかわいい形で、ものすごくかわいいアップリケとかついてる。とにかくものすごく変だ。三人で話していると、マッドマックスの悪役みたいな奴らがやってきた。

何かいざこざがあって照井くんが銃で撃たれた。痛そう。その銃声を合図にそこにいた人たちはみんな逃げ惑う。俺も物陰に隠れる。しかし、あっけなく見つかり悪党の銃口がこっちに向く。

「お前は目をつぶっていたな?」

どうやら俺は、理不尽な理由で撃たれるらしい。一発。足の甲に命中する。思ったより痛くない。でも痛がらないとまた撃たれるかも。「痛い!ものすごく痛い!」と演技をするが見破られてもう一発。血が少し出たけどやっぱり痛くない。かなりまずい。三発目。かと思ったら昼休みのチャイムでランチタイムになった。みんなでお昼にどこかに行く。

俺は実家の近くの山の上にある神社で数人とご飯を食べている。お風呂が湧いたらしいので入ろうかなと考えている。
でも昼休みが終わったら、またあいつらが帰ってくるので、せっかく入っても汚れるのは嫌だしな〜と思っている。

夢八十二夜

夢を見た。

電話次朗です〜!
ジュリアン公三です〜!
二人合わせて電話ジュリアンで〜す!!!!

マネージャーみたいな人は、絶対売れると盛り上がってたが、我々二人は残酷なくらい冷静で、デビュー前日に、黙ってやめようぜって話していた。
電話ジュリアンは芸人っぽい名前だし出だしも完全に芸人だが、歌手としてのメジャーデビューで、デビュー曲はゴリゴリのエグザイル風だった。バックにはダンサーもいた。

夢八十一夜

夢を見た。

近未来、スカパラの人数はエグザイル並みの増殖をくりかえし、夥しい数のスカパラがいた。
その末端の奴らは「金管楽器狩り」を行い、町の人々の金管楽器を奪い、自らの鎧にしていた。
俺も小さなトランペットを所有しており、毎日のささやかな楽しみに吹いていた。
ある日、俺の住む地域にもスカパラの金管楽器狩りの奴がやってきた。有無を言わさない略奪行為。差し出すか、さもなけれは死だ。
俺は涙をこらえながら、乱暴に取り上げられたトランペットを見つめる。すぐに他の金管楽器と混ざり、どれが俺のトランペットなのかわからない。
憎しみを込めた目でスカパラ金管楽器狩りのリーダーと思しきスキンヘッドを睨む。



そのスキンヘッドに「すごいっすね。金管楽器の鎧ほんとかっこいいっす」と媚を売る男。
その男は、高校の同級生のSだった。

俺は、トランペットを奪われた悲しみと、友人の情けない姿で、立ち直れないくらい落ち込んだ。

夢八十夜

夢を見た。

窓ガラスはしっかりと閉めているのに、
そのガラス部分から巨大なカラスが顔を出している。

子どもも寝ているし、俺はかなり焦っている。
体をねじらせてカラスは遂に部屋に入ってきた。
ヤバい〜と思ってどうにか取り押さえようとカラスにかぶさる。

ダメだ。大きすぎる。
一体どうしたらいいんだ!と途方に暮れた瞬間、
ふとみるとカラスは小さなコウモリになっていた。

ただ、動きはかなり奇妙で、
直感的に(これは、油断するとあの巨大なカラスに戻る)とわかった。
羽を広げないように、かつ、潰さないようにティッシュでしっかりと押さえた。
感触は何かイモムシみたいで気持ち悪い。
しかもなぜかヌルヌルしていた。
力なく鳴き声をあげるそのコウモリを、おれは外に捨てた。

夢七十九夜

夢を見た。


実家の居間に小さい入江みたいなのがある。
ブラックジャックのイルカだったかシャチだったかの来る入江みたいな。

急に深くなっていそう。
波も高くて荒い。
なにか危険だ。
そんなことを考えていると、
一緒にいた太朗の右足が、でかいうなぎのようなサメのような生き物に喰われた。
俺は間一髪で気づいて、というか、
何となく怖くて水辺から少し離れたところにいたのもあって助かった。

太朗は、海に引きずりこまれる寸前だったが、
かろうじて足一本ですんだ。
でもなんかすぐにぴょんぴょん歩いていた。
あれ?痛くなさそうだ。
「おー、やべかったなー」とニヤニヤしている。

しかし、とにかく太朗の足をどうにかしなければ。
家の電話から急いで警察に電話をかける。
全く出ないので、今度は救急にかける。
出た人と当たり障りのない世間話をした。

太朗は、海の中を覗こうとしたりしながら波打ち際に立っていた。
俺は、それを横目に(危ないな〜)と思いながら電話していた。

よっぽど「水辺から離れろ!」と言おうと思ったが、
電話しているしそれは止めた。